第126章 代償②
命の危機に瀕したエルヴィン団長が荷馬車に運び込まれる姿を、青い顔で見届けているのは――――エレンだ。
この子はこの子で、体は無事でも―――――酷い心の負担だったろう。
現にミカサも重症者の中の1人だ。
「―――エレン。」
「………ナナ……ッ……俺、みんなに―――――なんて、言って……いいか……。」
――――どんな陳腐な言葉も無意味だと、思った。
私はそっとエレンの頭を、撫でた。
「――――生きて戻って来てくれて、ありがとうエレン。」
「―――――!!」
エレンはカルラさん譲りの大きな目をさらに丸くして、私を見つめる。黒い瞳に色んな感情が渦巻いて、揺れている。
次の瞬間、強く強く、縋るように私の身体を抱き締めた。
いつもなら振りほどくところだけど、ただその頭を、ぽんぽんと撫でた。
「――――っ……ごめん……。団長や……ミカサを、助けて……ナナ……。」
「うん、任せて。じゃあ、行ってくるね。」
解かれたエレンの腕からするりと抜け出る。
エレンはその手を見つめて―――――ぐっと、拳を握りしめた。
こうしてエレン奪還作戦は多大な兵士を失いながらも、目標を達した。
ただ、ライナーとベルトルト、そしてユミルの行方はまた分からなくなった。いつまた壁を壊されても不思議じゃない。
そんなざわざわとした嫌な空気を拭いきれぬまま――――長かった一日は、終わりを告げた。