第125章 代償
壁上から馬を降ろすリフトの設営が完了した。
今すぐ、エレン奪還に向かう。
憲兵団と駐屯兵団との合同の即席部隊だ。
うまく動かさねば。
周りを見渡すと、やはり正直に彼女に目が留まってしまう。初めて自分から“行かない”決断と提案をしてきた。戦闘に長けていない彼女はこの作戦には不向きだ。それが分かっているから、彼女は自分の力を最も発揮できることをやろうと思ったのだろう。
思わず口角がほんの少し上がる。
「――――総員!!降下準備!!!援護班、戦闘準備!!!」
号令をかける。
援護班が近くの巨人を引き付けている間に、リフトで下した馬に騎乗してハンジの指した巨大樹の森へと進路をとる。
やはり憲兵団や駐屯兵団の兵士には荷が重いかもしれんが――――所属兵団を問わず、エレンを奪い返さないとこの世界は終わる。
兵団一丸で臨む、一大局面だ。
いよいよ、我々も発つか。そう思ったその時、私が言葉を交わしたいと思ったのがなぜ分かるのか。
ナナがそっと歩み寄って来た。
「――――御武運を。」
「――――ああ。ハンジを、みんなを頼む。」
「お任せください。――――どうか、どうかエレンを頼みます。」
「――――必ず取り戻す。人類のために。」
それ以上の言葉は交わさない。俺達にはこれで十分だ。
行かないで、側にいてと泣いて縋った君とはまるで思えない、凛とした私の立派な右腕だ。
――――必ず戻る。
君をまた、この腕に抱くために。