第122章 密約
エルミハ区。
ニックは絶望の表情で絶句した。
迫りくる巨人の恐怖からなんとか逃げるために俯き、涙を溜めて生まれた地を、家を捨てて彷徨う住民たち。
押し寄せる群衆の中で親とはぐれて泣く子供。
「―――教会の中でやってた妄想と少し違ったか?あれがお前らが切り捨てようとしてる顔だ……。」
「…………っ……。」
「住処を失った人の表情がよく拝めるな……今は強い不安に襲われている最中だが……お前らの望みが叶って……壁の中を巨人で満たすことに成功すれば、人が最期に浮かべる表情はこうじゃない。」
想像もしていなかった、という顔だ。
王都の教会の中でこの世界を知った気になって、壁の秘密を守っていることが、人々を守っていると同義だと思い込んでいたんだろう。
「最期は皆同じだ。巨人の臭ぇ口の中で人生最悪の気分を味わいその生涯を終える。――――人類全員仲良くな。」
「―――………。」
ニックは揺らいでいた。
エレンたちを連れてエルミハ区から南下し、破壊箇所の修復へと発つための準備をしているハンジがそのニックに目を止めた。
「――――何か、気持ちの変化はありましたか?」
「…………。」
「時間がない!!!わかるだろ!!!話すか黙るかハッキリしろよお願いですから!!!!」
「――――……私は話せない。他の教徒も同じで、変わることはないだろう……。」
「そりゃどうも!!!わざわざ教えてくれて助かったよ!!!!」
「――――我々は話せない。だが、壁の秘密を話せる人物の名を教えることならできる……。」
「なんだって……?」