第11章 交錯
頭を冷やすために時間が必要なのは、俺の方だった。
これ以上ナナを近くに置きすぎると、いつかこの欲望は暴走し、あいつを傷付けるだろう。
あの日からナナは俄然訓練に精を出し、専属補佐の仕事もそつなくこなしていた。
「………彼女は、タフだな。」
「……あ?」
団長室でエルヴィンと王政の動きや今後の兵団の動向について話している時だった。エルヴィンは、窓から見えた訓練中のナナを見てそう呟いた。
「あんなことがあったのに、今までと同じ……いや、それ以上の密度で訓練と執務をこなしている。それも自棄や忘れるために無我夢中で、というわけでもなさそうだ。」
「………おい、まさかお前……。」
「次の壁外調査にも、出られるかもしれんな。」
エルヴィンの口角がほんの少し上がる。
「あいつはまだ壁外には出さねぇ。」
「………彼女が行きたいと言っても、か?」
「そうだ。外に行きたいなら、俺が巨人を皆殺しにして綺麗に掃除してやる。あいつは、それから羽ばたきゃいい。」
「………ずいぶん過保護じゃないか。彼女は自分の力で外に出るために毎日訓練に励んでいるというのに、お前はそれを許さないのか?彼女の、意志はどうなる?」
「意志を汲んで死なすくらいなら、そんなもの無視してやる。」
「……私は、彼女の意志を尊重したい。今晩にでも、意志を確認しよう。」