第118章 溜飲 ※
ちらりと横に目をやると、エルヴィンが眠っている。
そう言えばエルヴィンはあまり眠らないんだった。
もしかしたら―――――私と同じで、見たくもない夢に苛まれるからなのだろうか。
その温もりにまた甘えたくて身体を寄せようと思うけれど、ダメだ。
今エルヴィンが起きたら、私が泣いていたら――――またいらない心配をさせる。
私はベッドをそっと出て、曇天の隙間から僅かに差す朝日を見つめた。シャツを羽織って、顔を洗って―――――心を整える。
自分で立ち上がれって教えてもらった。
私はまだ生きてるじゃないか。
生きてる限り、抗うんだ。
「――――大丈夫、私は大丈夫。」
胸に手を当てて深呼吸をしながら、昨晩の事を思い出す。
心の内を埋めたくて、目の前で仲間が死にゆくその凄惨な記憶を思い出したくなくて、生きてる身体を重ねて、その熱さを感じてエルヴィンの全てを受け取った。
エルヴィンを失ったら――――、なんて、大切な人を失った時のことなんて今は考えない。
失わないために何ができるのかを考えよう。
弱いなりに。
戦えないなりに。
私にできることを。
「―――――正念場はここからだ。」
彼らに恥じない生き方を、死に方をする。
この世界の真実を暴いて、外の世界を知る。
例えそれがこの壁の中よりも更に残酷な世界であっても。
私は髪を高く結って、早々に背中に自由の翼を背負った。