第116章 戦慄
――――その日の明け方の空の色を、俺は忘れない。
「――――ちっ………嫌な色だな、血の色みてぇだ……。」
壁外調査出立前。各自が準備をして配置につく、その喧騒の中で――――空を見上げて呟いた。
今回はいつもの壁外調査とはわけが違う。
一層視野を広く、あらゆる感覚を研ぎ澄ませて、常に最善の行動がとれるように。
それを阻みうる存在が、随分前の方にちらりと見える。
白銀の髪を高く結って、前を見据えている。
――――あいつが髪にクラバットを結ばなくなったのはいつからだったか――――、だがそれでいい。
こうしている間は――――“兵士長”でいる間は、あいつの命すら必要なら切り捨てる。だからこそ何度も教えてきた。『てめぇの身はてめぇで守れ』と。『自分で立ち上がれ』と。
今回ばかりはあまりに嫌な感じがするからこそ、そもそも壁外にすら出したくなかったが――――あいつが誓うなら必ず守るだろうと、ナナの隣のエルヴィンにも目をやる。
「――――さて、何が出るやら、だな………。」
腹を据えると同時に、俺の真後ろで不安げに待機するエレンに目をやった。