第115章 継受
「お、お前が言ったんだぞ?!昔……その、『許可なく女の髪に触るなんて、礼儀も知らねぇのか』みたいに言ったろ……!?」
「……………。」
「な、なんだよ!!!」
「ふっ………あはははっ!!!」
思わず大笑いしてしまった。サッシュさんが顔を赤くしている。
「なに笑ってんだ!」
「だ、だって……!もう5年も前のこと、よく覚えてましたね……?!」
「悪いかよ!!んで?!どうなんだよ、触っていいのか?!駄目なのか?!」
引きずる笑いをなんとか堪えて、目元に滲んだ涙を拭った。サッシュさんのその、5年前より随分深みを増した瞳を見つめて答える。
「いいに決まってるじゃないですか。――――サッシュさんの中にいる、リンファに――――触れて欲しいです。」
「―――――………。」
「お願いします。」
「――――ああ……。」
あのいつもの願掛けのように。
サッシュさんの手が、リンファと同じ髪飾りを私の髪に通していく。
「――――できた。」
「ありがとうございます。」
「――――――散らすなよ、その髪飾り。」
「はい。」
「怪我も許さねぇ。」
「はい。」
サッシュさんがまるでリンファと同じ仕草で拳を握りしめて私に向けて差し出した。私はそれに同じように拳をとん、と合わせる。
「――――生きてまた、ここに戻りましょう。」
ねぇリンファ、私たちは大丈夫。
そして―――――サッシュさんの中にいてくれて、ありがとう。大事な大事なあなたを失ってからも、なんとかこうしてここに立ってる。
でも、どうか見守ってて欲しい。
ああ、言われなくても見守ってくれてるかな。
もし私が――――サッシュさんが、三途の川を渡りそうになったら、追い返してくれるでしょう?
あなたが命を懸けて守ってくれたこの命で、絶対に何かを成し遂げるまで、死なないから。
そしてカラネス区に移動を済ませ、翌朝。
その長い長い1日の――――――
血に塗れた悪夢のような1日の――――――
幕が、開けた。