第111章 牽制
「優しくて綺麗で、いい匂いがして……いつもくるくる動きまわってて……、俺のこともミカサののこともアルミンのことも……大事に想って、守ろうとしてくれてました。大人で、落ち着きがあって―――俺はいつも守られて、諭されてばっかりです。」
「…………大人で落ち着きがある……?……立場が変われば見えるものも変わるもんだな。」
「だから―――この巨人の力を使ってでも、守れるなら―――守りたいです。今度は、俺が……。」
エレンの言葉にイラつく。ミケの言ったとおりじゃねぇか。青臭い憧れが隠せてない。いや、隠す気すらねぇのか。
うつむき加減で小さく漏らしたエレンの言葉は、また厄介事を1つ積み上げたように聞こえた。
「――――けっこうな心意気だが、そう思うなら早々にその巨人の力を意のままに操れるようになれ。自我を無くして、審議であったように誰彼構わず攻撃するなどもってのほかだ。」
「は、はい……っ!」
「………………。」
エレンは決意を固めるようにぐっと拳を握りしめた。そして――――小さく一言を呟いた。
「あの……兵長は……俺が怖くないん、ですか……?」
恐る恐る俺のほうを見てその問いを投げかけた。審議所でも、俺の班の奴らからも、異形の怪物でも見るような目で見られてきたからか。
俺がこうして1人で側にいることを、不思議に思ったのだろう。
「怖いわけねぇだろ。変な真似をしてみろ。即殺す。俺には造作もない。」
「…………。」
「――――だからまぁ、俺にとってはお前は普通のガキだ。だから普通にしてろ。」
「………………!」
俺の言葉に、エレンは目を見開いて僅かに目を潤ませながら唇を噛んで俯いた。
畏怖の目線を突き刺されるのは、たかだか15のガキには辛いだろう。
だがそれもまたこいつの運命だ。受け入れて抗うしかない。
「……はい……、普通に、してます……。」
「ああ。」
それからまたエレンは少しナナの話をして、ようやく少しだけ15のガキらしい顔を見せた。