第111章 牽制
エレンの身柄は幹部会で決していたとおり、調査兵団で預かることになった。
あの審議のあとにすぐにエレンの手当に取り掛かったけれど――――、みるみる内に怪我は回復をし、驚くべきことにあの時リヴァイ兵士長に蹴り飛ばされて飛んだ歯が、新しく生えてきていた。それは人体について普通の人よりも多少知見のある私からしたら異常な事で――――、エレンが普通の人間とは違うんだと思い知った。
それからエレンは対策本部から少し離れた、旧調査兵団本部であった古城に匿われることになった。
もちろんそれは、リヴァイ兵士長率いるリヴァイ班がエレンに目を光らせつつ監視するためだ。
明日の朝そこに向けて発つとのことだ。
エルヴィン団長や私はもちろん同行しない。新兵の所属兵科を決めるための勧誘演説が近々行われるため、エルヴィン団長はそこで1人でも多くの新兵を獲得するための演説をする。
更には審議の中で約束をした、次の壁外調査の内容についても兵団本部、ザックレー総統に早々に提出せねばならず、その立案と資料の作成もあり多忙の日々は続く。
私は少しでもそのお手伝いをすべく、調査兵団に置いて来てしまったが、作戦立案のために必要な資料のうちなにを持ち出すかを精査していた。
どの棚に何の資料があるか、ほぼ頭に入っている。
私の数少ない特技が役に立つことを嬉しく思いながら、対策本部の一室でエルヴィン団長から言われた資料のありかを思い出しながら書き出していく。
これを今日中に兵士に託し、明日にはここに届けてもらう予定だ。
日が傾き始めた頃、もろもろの準備をしていると、扉が鳴って――――思わぬ人から声がかかった。
「――――ナナ、俺だ。」
「はい、リヴァイ兵士長……?どうぞ。」
「――――………。」
ぱたぱたと足早に扉に駆け寄ってそっと扉を開けると、リヴァイ兵士長は無言で部屋に入り、私の側に立ったまま目線を斜め下に下ろした。