第109章 対策②
「どうしたのナナ?」
「いえ……必要なことだと、わかっているんです……でも……痛いの、ですよね……。」
「………そうだね。」
散々人を食って、殺して―――――当然の報いだと言われればその通りだ。だけど、やはりどんな相手であれ、“わざと痛みを与える”という行為に前向きにはなれない。それは私の中の医師である自分が『本当に必要なのか?』と内側から訴えかけてくるようだ。
それに、エレンが巨人だったのなら、ソニーやビーンも人間ではないという保証はない。
―――――誰かの愛する人ではないという保証もない。
「すみません、水を差すようなことを。」
「いや、私も同じ気持ちだよ。ナナが“命”を大事に想う人だからこそだ。私は、嬉しい。」
ハンジさんは優しく笑って私の頭を撫でてくれた。
「――――ありがとうございます、ハンジさん……。でも、誰かがやらなきゃいけないんですよね。」
「――――そうだね。」
「なら、私もハンジさんと共に―――――、その誰かに、なります。」
「――――………ありがとう、ナナ。」
ハンジさんがいつになく真剣に私を見つめる。
眼鏡の奥のブラウンの瞳はその深さを増して、まるでいつもの彼女とは違うように見える。
仲間を山ほど目の前で失って、絶望も、憎しみも、葛藤もあっただろう。それでも負の感情に巻かれることなく、真実を見極めようとするこの人もまた人類の存続する未来を勝ち取るために欠かせない人だ。
ハンジさんとともにいられることを、誇りに思う。
そんな私の想いは、ハンジさんとの一瞬の視線の交差で―――――不思議と伝わっている気がした。
そしてハンジさんのその後ろで、モブリットさんがとても穏やかに、小さく笑った。