第107章 肯 ※
ハンジさんがいつか言っていた、『エルヴィンはほとんど眠らないんだ』って。
私といる時はとても安らかに寝息を立てるから不思議だと言うと、『――――そうか、ナナとならエルヴィンは眠れるんだね。』そう言って、ハンジさんはとても嬉しそうに笑った。
「――――私もエルヴィンを守れてる……?癒せてる……?」
その髪にさらりと指先が触れる。
「ねぇエルヴィン、あなたを―――――満たせてる………?」
目を開かない愛しい人に、甘えるように問いかけてみる。
返事は返ってこないけれど――――、ふと自分の胸元や腹部、あらゆる場所に散らされた赤い花びらのようなエルヴィンの唇の跡を見ると、全部ではなくても、彼の欲求をこの身体で満たせたんじゃないかと思える。
「―――――私、女の子に生まれて、良かった――――――………。」
なぜだろう、涙が出る。
気が昂っているのかもしれない。
ずっとずっと小さく呪ってきたそれを、この腕の中なら誇れる。
兵士たちの命や人類の命運を握る、重責を背負い過ぎた彼がその翼を休められるのなら、私はいくらでも喜んで受け入れる。
それが少しくらい乱暴でも、痛くても――――愛しているから。
共に歩むと決めたから。
彼が疲れたら私が癒して、私が折れたら彼に支えてもらう。
そうやって少しずつ一緒に強くなりたい。
「――――I love you………。」
その胸にすり寄って、エルヴィンの寝顔を眺める。
私の動きに反応したのか、エルヴィンは眠ったままなのに私をぐい、とさらに引き寄せて、きつく抱いた。
息苦しいほどなのになぜか心地よいその腕の中は、私の存在を肯定してくれる居場所だ。
大切で、愛しい人。
埋めあって、補いあって、ぶつかりあって、赦しあって、認めあって、高めあって―――――――
あなたとこの残酷な世界を、生きていく。