第106章 危局③
アルミンが作戦を具体化していく。
いくらエレンの巨人化する力があるとはいえ、区内にはかなりの数の巨人が入り込んでいる。岩を運んでいて戦えないエレンに数体で食いつかれたらひとたまりもない。
巨人になったエレンから他の巨人を遠ざける“囮”と、巨人化して岩を運ぶエレンを守る“精鋭部隊”が編制された。
正直成功する確率さえわからない。
なぜなら、エレンが巨人の力を完全に操れる確証がない。
そんな中でもあらゆる状況から実行を即決したのは、ピクシス司令が“生来の変人”と言われつつも人類にとっての最重要区防衛の全権を託されている手腕の持ち主であるということを物語っていた。
何より鳥肌が立ったのは―――――初めて見た、エルヴィン団長をも凌ぐのではないかと思うほどの人心掌握術だ。
実際のところ、それでなくてもこの地獄絵図を目の当たりにして恐怖のどん底に叩き落された多くの兵士たちが、こんな成功する確率さえ不明瞭な作戦に命を投げ打って挑めるはずがなかった。
トロスト区から続くウォール・ローゼの壁の内側では、その場から逃げ出そうとする兵士、それを武力で押さえつけようとする上官の衝突が起こり、混沌を極めていた。
それを壁上からピクシス司令が一喝したことで――――――、兵団は再び、組織としての団結を取り戻したのだ。
ピクシス司令の言葉はここにいる人類全員に深く刺さったことだろう。
4年前のウォール・マリア奪還作戦。
あの無謀な作戦は口減らしが目的であったこと。それを黙認していた、口減らしで死んだ者達がいたから今ここに私たちは生かされているんだという残酷な真実。
そして―――――今この時、このトロスト区を守れなければ、次に破られるのはこのウォール・ローゼに続く内門だ。
それが破られれば――――――、この先、人類は狭い檻の中で食料を奪い合って殺し合いを始めることになる。
「人間としての尊厳を守るために、今ここで死んでくれ」と――――――潔いまでの残酷な言葉だった。