第104章 危局
「――――リヴァイ!退却する。」
「……退却だと?」
何を言ってやがる。今回の目的はまだ先だろう。
引き返すほどの理由はなんなのか。
「おいエルヴィン、まだ限界まで進んでねぇぞ?俺の部下は犬死にか?理由はあるよな?」
「――――巨人が街を目指して一斉に北上し始めた。」
「!!!??」
エルヴィンの言葉に、首元にナイフでも突きつけられたような恐怖を感じた。
そうだこれは、5年前のあの日―――――、ナナが住むシガンシナ区が巨人によって陥落したと聞いたあの日以来の、嫌な感覚だ。
「5年前と同じだ。街で何かが起きてる。壁が―――――破壊されたかも、しれない。」
5年前と違うのは―――――確実にナナが、そこにいるということだ。
俺達が置いて来た。
そして俺達をそこで待っている。
心臓を握りつぶされそうな感覚に、息が荒くなる。
――――こんな時ですら、兵士長である俺は真っ先に馬を駆ってナナの元に駆けつけることはできない。
当たり前だ。
それをお前が望んだんだ。
だからナナ―――――、生きていろ。
お前なら考えて最善の働きができる。
俺達が戻るまで―――――絶対に生き延びろ。
いつかナナが歌ってくれた、神の福音とやらが、神の加護とやらが本当に存在するのなら。
俺にはいらない。
どうかナナを、守ってくれ。
この時俺は生まれて初めて、神に祈った。