第100章 楔 ※
リヴァイさんは泣く私をそっと優しく抱きしめてその髪を撫でる。こんなに温かで、穏やかな愛情を持っているなんて、知らなかった。
「――――俺と生きるか?に即答できないお前はまだ、エルヴィンを想ってるんだろう?」
「――――はい……。」
「だろうな、お前は驚くほど頑固だからな。自分の決めたことを容易く曲げない。」
「――――可愛くないですね、私……。」
「早く俺の腕に戻ればいいと思うが、意志の強いお前に惚れてるからな。――――それにお前はいつだって可愛い、クソほどな。」
普段のリヴァイさんからは想像もできないような、ストレートな甘い言葉を紡いでくれる。
ほんの少しだけ、その胸に頬を寄せる。
「――――リヴァイ、さん………。」
「――――なんだ。」
「――――大好き………。」
「――――ああ。」
ほんの数秒、お互いの鼓動が重なってから、リヴァイさんは言った。
「落ち着いたなら戻ってやれ。朝起きた時にお前がいないと、あいつ泣くんじゃねぇか?」
「ふふ……そんな団長は、嫌ですね。」
小さく笑うと、リヴァイさんは腕を解いて、私の頭をそっと撫でた。
「――――任務だ、ナナ・オーウェンズ。」
「………はい。」
「エルヴィンともう一度向き合って来い。」
「………はい。」
「――――もしあいつに愛想を尽かしたらいつでも帰って来い。今度こそ、めちゃくちゃに愛してやる。」
「――――……損な、人ですね。」
「あぁまぁな………我儘で大人げねぇ団長の尻ぬぐいをするのは慣れてる。それに――――お前を守り導くと約束したからな。ワーナーに。」
「――――いつも背中を押してくれて、ありがとう………。」
「――――行け。」
リヴァイさんの温かな手が私の頭を少し撫でて、送りだしてくれた。
胸が苦しい。
あなたへの想いは、初恋が愛に変わって、あの日から時間をかけて敬愛へすり替えて―――――そしてまたはっきりと、愛へ戻ってしまった。
それはどんどん積み重なって、深みに嵌っていく。