第99章 陽炎
「――――ナナ?眠ったか?」
「……うん。」
「起きてるじゃないか。」
帰団したナナを私室に囲って、今まで離れていた分の距離を埋めるように隅々まで、嫌と言うほどに愛する。
残暑の熱のこもる部屋で汗ばんだ身体を合わせて何度も交わって、ナナは何度も俺の背中に爪を立てて達した。
ナナは仰向けに寝た俺の胸にくたっと顔をのせて微睡むのが好きらしい。まるで日向で微睡む子猫のように、幸せそうに目を閉じている。
「――――眠りそうだったのに、エルヴィンが起した。」
ナナが膨れながら俺を見上げる。
「それは悪かったな。―――なら、無理矢理寝かせて――――トばせてあげようか。」
ナナの後頭部に手をやってぐっとその頭を引き寄せると、ナナは途端に身体を強張らせた。
「え、遠慮しときます……。」
「なんだ。俺は好きだぞ?快楽に呑まれて、意識を手放す時のあの恍惚としたナナの顔が。」
「言わなくていい……!」
顔を赤くしながら、俺の頬をつねる。
ああなんて―――――幸せな時間だろう。
君と出会わなければ、知ることもなかった感情だ。
それはひどく甘くて中毒性がある。もっとこの甘い罠に、深みに嵌ってしまいたいと―――――思ってしまう。
「――――そういえばね、ダミアンさん……ライオネル公爵と、食事に、行ったよ。」
「ああ。どうだった?うまくやれたか?」
「――――多分……。」
ナナが少し不安そうにつぶやく。
こういうことを手紙に書いてくれればいいものを―――――、彼女は肝心なことは言わないんだ。
それでも、リヴァイのことと言い、こうして打ち明けてくれるようになったことが変化だ。そう解釈してナナの話に耳を傾ける。