第96章 経緯
「――――もう少し、ゆっくりしてから帰ろ……。」
兵舎に急いで帰っても誰もいない。
私を歓迎してくれる人なんて。
そう思いながら、小さな路地に差し掛かった。その瞬間、視界が真っ暗になって――――――耳元で一言の声が聞こえた。
「――――可哀想な女だ。が、仕方ねぇ。首を突っ込んだのが間違いだったと―――――自分を呪え。」
「―――――え………。」
目の前に飛び散る赤い滴はなに。
――――私の、血だ。
首に痛みが、と思った瞬間――――――――まるで噴水のように、血が噴き出した。
待って、待って、死にたくない。
本当は死にたくない。
もう一度ちゃんと伝えたい―――――リヴァイ兵長に、本当に好きだって。
ナナさんに、あの時お母さんを助けてくれて、ありがとうって。本当は、あなたともっと話して、私のことも知って、欲しかった。
―――――あなたみたいに、なりたかった。
「つ、たえ―――――た……。し、にたく―――――な、い………。」
「――――残念、そう甘いもんじゃねぇんだわ。」
崩れ落ちるその瞬間に見たのは、翼の日のあの男。
何事も無かったように黒いハットのずれを直した。
その時の表情が、その目が―――――私が恋に落ちたその時のリヴァイ兵長の目にひどく重なった。
私はいつも間違ってばかりだ。
でも――――何を間違ったのかわからない。
私が死ぬことで、誰か泣いてくれるだろうか。
―――――――お母さんが死んだことに安堵した私への、これは罰なのかもしれない。
ごめんなさい、ごめんなさい。
――――――――ただ誰かの特別に、なりたかった。
ただ、それだけだったの。