第94章 寒慄
「――――なぜだ?ナナを一晩貸せと言うくらい、溜まってるんだろう?」
「――――抱きたいのはナナであって、他の女じゃない。」
「――――だがナナは俺のものだ。お前にはやれない。やりたくない。絶対に。」
うぜぇ事実をいちいち言葉で突き刺しやがる。
「――――だから寄越せじゃなく、貸せと譲歩してんだろ。」
「――――ナナを乱すな。」
「――――俺のセリフだそれは。ナナに俺を乱させるな。お前が管理しろ。」
「――――……アリシアを代わりに抱けば、全て丸く収まるじゃないか。」
「じゃあお前は抱けるのか?ナナの代わりとして他の女を。」
「―――――………!」
「『愛していない女でもナナを守るためなら抱ける』と言っていたよな?本当にできるのかよ。」
「―――――………。」
エルヴィンが珍しく論破されたように押し黙った。自分の中で葛藤しているんだろう。
こいつがナナにどれだけ溺れているかは知っている。あの頃とはもうナナに入れ込む熱量が桁違いで――――他の女のことなんて、目にすら入ってないはずだ。
「――――できもしねぇことを俺に強いるな。」
「――――……そうだな。では――――対中央憲兵も対アリシアも共闘といこうじゃないか。仕事始めは―――――来月の夜会だ。ナナは調査兵団ではなく、オーウェンズ側で出席する。お前も同伴しろ。ナナにか私にか、どちらにせよきっと何か起こる。――――奴らがもっとも動きやすい、王宮と王都は奴らの庭だからな。」
「……面倒なことになりそうだ。損な役回りだな全く………。契約料として最高級の酒を要求する。」
「………段々要求がエスカレートしてきてないか。」
「気のせいだ。」
――――今回もまた厄介だ。もし本当にあいつが絡んでいるなら、ビクターの時とはわけが違う。
下手すりゃ誰かが殺られる。
もしかしたら、俺すら。
そんな嫌な想像をして、ふっと息を吐いた。