第9章 欲望 ※
訓練が始まってから、二か月が経とうとしていた。立体機動はまだまだ使いこなせるには程遠いが、ようやく移動、と呼べるような動きができるようになっていた。
練習の合間に見る、みんなの動きには感動を覚える。特にリンファさんの動きはとても滑らかで無駄な動きがなく、軌道が常に変わっていて動きの予測が困難だ。
まだ一人前に通常の移動だけでもままならないのに教えを乞うのは失礼だと思っていたが、そろそろ教えて欲しいと、頼んでみても良いだろうか……と考えながら、自身の練習に励んだ。
最初こそ風当りが強かったものの、なんとか兵士のみなさんの中に、徐々にではあるが溶け込めてきているような気がする。特に訓練中の手当を毎日できるようになってから、みんなとの距離がぐっと近づいた。もう、ほとんど全員の名前も覚えられた。
「ナナ!こっち頼む!!!」
「はいっ!」
私を呼ぶのは、サッシュさんだ。腕を押さえているのは、栗色の巻き髪を束ねた、サッシュさんの同期にあたるアウラさんだった。
「アウラ、ナナに手当してもらえ。」
「…………。」
アウラさんは黙って私に腕を差し出した。
「診ますね。」
ブレードがかすったのか、十数センチほどの切創からは血が流れていた。私が止血して処置を行っていると、アウラさんが私に話しかけてきた。
「………ねぇ、リヴァイ兵士長の専属補佐ってさ、何やってんの?」
「書類の整理や会議などの予定調整、その他雑用や……なんでもやりますよ。」
「へぇ………。」