第92章 一時帰団
12月に入って、調査兵団では翼の日の準備が始まったと聞いた。
以前ザックレー総統とエルヴィン団長と約束した通り、翼の日の開催前後数日だけは、手伝いのために兵団に戻る。
陣頭指揮はサッシュさんがとってくれている。きっと得意じゃないであろうこういった類の仕事を率先してやると言ってくれたのは―――――、きっとそこに、リンファとの思い出を探したい、大事にしたいという思いがあるのだと私は思う。
だから兵団に戻ったら――――サッシュさんとたくさんたくさんリンファの話をしたい。思い出しては泣いて、偲んで、前を向くために必要な儀式をちゃんと、リンファのもっとも近くにいた私たち2人でやりたい。
そう言えば中央憲兵の動きにはずっと注意しろと言われていたけれど、本当に何事もなく過ごせている。なので兵団に戻る時も迎えは要らないと言ったのだけど、心配性なエルヴィンは自分が王都招集の日に連れて帰ると言って引き下がってくれなかった。
もちろんエルヴィンの言うことにロイはすぐ同意しちゃうから、結局エルヴィンと共に帰路に着くことになった。
少し家を空けるのは心配だけれど、ボルツマンさんとの諸々の調整もそこまで大きな問題は起こらずに成しえているし、―――――なによりボルツマンさんとお母様がよりしっかりと話をしながら譲渡の話を詰めているからか、以前よりもボルツマンさんがお母様を少しずつ信用してくれるようになっている。
ボルツマンさんのことを調べた時に思った。
元々彼も“人を救いたい”という熱い気持ちを持って医者になった類の人間だ。―――――立場や関係性を置いておいて、1人の医者として相対すれば―――――お母様と通ずるところは大いにあるのだと思う。