第89章 溺愛 ※
「それなら叶えてあげられるかもしれない。」
「――――………。」
「エルヴィンがそれを選択する時は、余程のことがある時だもん。エルヴィンがそうしたいと本気で思ったら、私を終わらせていいよ。あなたの、ものだから。」
そう言ってナナは、自分の首を掴んでいる俺の手に優しく手を重ねた。
「――――調査兵団団長ではないエルヴィン・スミスを君が見つけ出してくれたから――――、君を失ったらおそらく俺は、本当の自分を保てないんだ。」
「私が死ぬときは、エルヴィン・スミスという人格まで連れてっちゃうってこと?」
「―――そうだ。残されるのは――――、調査兵団団長という仮面だけになる。」
「……じゃあ死ねないなぁ。」
ナナはふふっと笑った。俺もつられて笑った。
「――――鳥が片翼では飛べないように、俺は君なしでは俺という人間を生きられない。―――――――これを“愛してる”意外の言葉で表す術がなくて、本当に困る。」
「――――その言葉でも、十分伝わるよ。だから、聞きたい。」
ナナは額をこつん、と合わせて、その言葉を乞う。
「――――ナナ、愛してる。」
「――――I know……」
生意気な一言を残して、いつもよりも甘えるようなとろんとしたしてやったり顔を向けて、ナナが唇を重ねてくる。
甘く甘く、何度も何度も唇を寄せ合いながら、その夜はいつものように体を重ねるのではなく、ただひたすらにキスしては抱き合って、それはまるで心を重ね合うようで――――――至極の心地良さを感じながら、お互いの体温に溶けていった。