第86章 遺志
明らかにいつもの巨人とは違う、表情・仕草、そして何より―――――言葉を以って意志が通じる。
とにかく試して、その結果を残す。
私は色んな問を投げかけた。
存在や所在、目的を問うても、苦しそうにうめくだけでそれ以上の言葉を発しない。
私は大義名分でも期待していたのだろうか。
目の前で仲間が食われたのには、相応の意味があって欲しかった。
その思いが爆発し、それを叫ぶ。
「なぜ私たちを食う?!食わなくても死なないだろう!!!お前らは―――――無意味で無価値な肉塊だ!!!!」
途端に大人しかった巨人が、なにかとせめぎ合うように自身の顔面に爪を立て、指を食い込ませ、その肌を引きちぎりそうな勢いで気味悪くうめく。
「この世から――――消え失せろ!!!!」
その言葉を私が発した瞬間、巨人の様相が変わった。
ぞくりと背筋が凍り、なんとかその場を後に逃げる事を試みて全力で走る。
その巨人の目がぎょろっと私を捕らえた、その目は―――――今まで見た巨人と同じ、ただ捕食対象を食うことしか考えていない目だった。
簡単に私の身体は掴まれ、身動きが取れない。
胸ポケットから、今の出来事を全て記したメモが零れ落ちた。
ゆっくりと落ちながらパラパラとめくれるページの向こうに、彼らを、彼を想う。
「――――みんなに、届いて………――――兵長に、私の――――――生きた、意味――――――。」