第85章 逢瀬 ※
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腕の中で眠るナナを見て、少し心配になる。
帰りたくないと言い、ここまで乱れるのは―――――今苦しい壁をきっと超えようとしているからなのだろう。
いくら医療とはいえ、王都で事業の大きな変革をやってのけるには、相当な胆力が必要だ。貴族や成金も含め、私欲に取り付かれた曲者どもの中でナナのように純粋でまっすぐな人間が事を運ぶのは至難の業だ。
本当は今すぐ助けてやりたいが―――――、それはナナの力を伸ばす機会を奪うことになる。ナナが考え、立ち向かい、上手く行かなくてもまた考えるその学ぶ機会を俺は安易に取り除きたくはない。
彼女が助けてくれと言うまでは、ただ見守ろうと思う。
「――――君はすごい女性だ。なんだって出来る。なんだって乗り越えて来た。大丈夫だナナ。君らしくいればいい。」
愛しいその寝顔に語り掛けながら髪を撫でる。
「――――どうしても辛くなったら、俺がいる。」
俺も腹を括らなくてはならないのに、ここまで愛しさを募らせてしまえば、またそれが難しくなっていく。
“調査兵団団長として俺は、何よりもこの世の真理を追究することを最優先する”
ナナに出会ってこうして手に入れるまでは、ごく当たり前でなんの不安もなかった。
どんなに信頼している仲間でも、同じ志を持っているからこそ、必要であれば死なせることすら厭わなかった。
それがナナを知ってしまってからは、彼女だけはどうしても、他の兵士と同等に必要なら切り捨てるという覚悟が、できない。
だが彼女はその覚悟を俺に強いる。
―――――俺をようやく愛してくれたかと思うと、今度は別の残酷さを突き付けてくる。
本当に君は、怖い女だ。