第84章 奞
「――――ごめんね、ナナ………。」
「――――いいの……。そんなことで、私は何も変わってない。何も、失ってない。」
「……あなたは、強くて―――――優しすぎるわ。」
ほんの少し、お母様の身体に腕を回して抱き締め返した。
「――――ロイに二度と、身体も心も削るようなことをさせたくないの。」
「ええ。私も同じことを考えていたわ。――――ロイが手に入れたもの、全てお返ししましょう。また、小さくからやり直せばいい。目に映る人々を救うこと。それこそが、私たちの使命だと思うから。」
「――――うん。」
家に戻ってからロイにその話をすると、小さくごめん、と呟いて、買収や合併をしてきた病院や診療所なども順次切り分けて元の所有者へ返すことに了承した。
問題は、ここまでうちが大きくなったことで恩恵を受けている経営幹部の理解を得られるかということだ。
これからの1年半は、まず院内幹部の説得と、各院の切り分け方やそれぞれとの交渉などに費やされていくんだろう。
お母様は経営に関しても勘が良く、経営の方針や運営に関しては頼もしいばかりだけれど、いかんせん世間体は良くないため、交渉などの外交的な部分は私がなんとしても成功させていかなくてはならない。
「………立体機動の訓練してるほうが、気が楽だな……。」
「ナナ?何か言った?」
「――――ううん、なんでも。」
調査兵団にいた頃とはまるで違う毎日が訪れることにささやかな不安を抱きながらも、彼らに恥じないようにも、この1年半を必死に乗り越えることだけを考えようと自分を鼓舞した。