第83章 声涙
しばらくそのまま硬直して、俯いて片手で顔を覆って俯いてしまった。
どうしたのかと心配になって頭を撫でると、エルヴィンは小さく言葉を漏らした。
「――――……すまない………。」
何かを心の中で反芻しているようだった。
エルヴィンはいつも自分の中で処理しきってしまうから。
もし分けてくれるのなら、その感情を理解したい。
受け止めたい。
そう思うと、自然に唇が動いた。
「――――泣 い て 、い い よ………?」
すごく小さな掠れた声で、言葉は紡がれた。
エルヴィンはハッと私の顔を見た。
「――――泣 いて、いい。」
まるでエルヴィンの、これまで堪えていた感情があふれ出したように一筋の涙が落ちた。
「―――――ナナ………!!!」
小さな子供を抱き締めるようにエルヴィンを胸に抱いて強く強く抱きしめる。
強くなりすぎたこの人に、私は更に強くなれと酷な事を言う。
だからせめて、あなたが私に望むことには応えたいし、望むものは全て与えたい。
「この心も、身体も、声も、命も――――――あなたのもの。」
「ナナ………っ………、ナナ…………、ナナ………っ………!」
「私の声を取り戻してくれて、ありがとうエルヴィン………。愛してる。心から。」
「ああ―――――――、俺もだ…………。」
エルヴィンの涙はきっとこれまでの色んな重責や葛藤、後悔や傷をたくさんたくさん含んでいる。
ただの一滴でも、私に分けてくれたなら――――――こんなに嬉しいことはない。