第80章 喪失
隊がトロスト区の門をくぐってすぐ、俺はナナとリンファを探した。
ナナは負傷者用の荷馬車に横たわっていて、なんとか生きていることがわかった。
だが、いくら探しても探しても―――――俺の好きな、あの凛として美しい真っすぐな黒髪を見つけることができなかった。溢れる嫌な汗と、今までに感じたこともないような心臓を圧搾するかのような鼓動に耐えていると、リヴァイ兵長の姿があった。
「リヴァイ兵長……!リンファを、見ませんでしたか……?!どこにも、いなくて―――――」
「………見た。勇敢な最期を看取った。」
「――――――…………。」
そう言うと、リヴァイ兵長はペトラに視線を向けた。
「――――サッシュ、さん………これ………。」
顔を歪めて涙を流しながら、震える手でペトラが何かを差し出した。呆然としつつも手を出すと、リンファが大事にしていた、ナナとお揃いの千切れた髪飾りでまとめられた一房の黒髪が、そっと乗せられた。
「―――――……あぁぁああああっ…………!!」
―――――やっとその大切さに気付いたんだ。そして――――やっと想いを繋げたのに。
あいつは――――リンファは、死んだ。
艶やかで美しいその髪に指を通すと嬉しそうに笑うあいつは、もういない。
なんだ、それ。
いないってどういうことだ。
もう会えない。
声を聞けない。
触れられない。
信じられないのに、なぜか身体が崩れ落ちる。
身体の中から淀んだ黒い物が蠢きまわるような感覚に、たまらず声を上げた。