第79章 試練
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リンファが食われた。
時間を稼いでくれたおかげで、間に合った。
馬上から戦闘態勢に入る。俺は左手の剣を逆手に持ち替える。
「兵長、まだ距離が――――――!」
アンカーが届くギリギリの距離から射出し、1秒でも早くその項を削ぐ。ガスをふかして最速で近付き、間合いに入ってからアンカーを回収する。
回転を加えて、斬撃に威力を乗せる。ザンッと項の大部分を削ぎ切り、体勢を立て直して足元にいた小型を脳天から背中にかけてを裂くように削ぎ切った。
「は……。どういう動きだよ、あれ……。人間じゃできねぇよ……。」
「――――兵長、すごい……。」
中型の巨人の手から解放された、血に塗れたナナを抱きとめる。脈はある。が、意識はない。
「兵長、ナナさんは……大丈夫ですか?!」
「――――かろうじて生きてる。」
「……兵長……これ、この長い黒髪……リンファさんの………。」
ペトラが震えながら地に落ちた長い黒髪を一房手に取った。
「―――――その髪と、遺品になりそうなものは持って帰ってやれ。――――サッシュのためにも。」
「はい………。」
ペトラは血だまりの中から、千切れた髪飾りとリンファの黒髪を拾い上げ、そっと胸ポケットにしまった。
「――――隊に合流する。いくぞ。」
ナナを抱いたまま馬に跨り、本隊を目指す。
まるでそれが試練だったかのように、吹雪はやんで―――――一瞬で大きな打撃は受けたものの、エルヴィンによって再編成された隊はその後戦闘を避けつつ、日が落ちてすぐに帰着した。