第79章 試練
曇りない空とは言えない、雲行きの怪しい空だった。
前日にトロスト区に入り、次の日の早朝。
私はリンファとお互いの髪を結い合い、同じ飾りをあしらう。これが私たちの願掛けのようなもので、生きて帰ることを強く誓う。
「――――怖い?」
私の髪を触りながら、リンファが問う。
「うん、ちょっとね。リンファは?」
「―――うん、あたしも、ちょっと怖い。」
リンファが怖いと言ったのは初めてだ。
愛する人と結ばれたからこそ、彼女が今この生を手放したくない気持ちが強くなったのか。私たちはお互い軽く握った拳を、こつん、と合わせた。
『よろしく、戦友』
総勢195名の、私の知る限り最大の調査だ。
この夏に行う数日間の大規模調査に向けて、長距離索敵陣形の改良の是非を問う。それと同時に物資を各補給ポイントに運搬する。私は中央本隊の医療担当。他の医療班は、いつも通り各班に散って配された。開門を待つ間の雑踏の中で、集中力を高める。
前2回の調査で学んだことを必ず活かして、私のすべきことをやる。ふっと空を仰ぐと、宵の月が朧げに浮かんでいた。
「開門!!!!!!」
エルヴィン団長の声とともに、兵士たちは駆け出す。
それぞれの想いを持って。
この門を再びくぐれる仲間を1人でも多くするために、私はここにいる。母の強い言葉が胸の中で木霊するように何度も響いたような気がした。
『人を救う事こそ、私の生きる意味』
――――――私の生きる意味とは少し違うけれど、その言葉に恥じない働きをしたいと思う私は、やはり母の血を色濃く継いでいるのだと実感する。
ぎこちなく左手にぎゅっと、力を込めた。