第77章 己己
そう言えば扉の向こうにうっすらと感じた気配が無くなっている。
――――リヴァイだろう。
俺がナナを責めた場合、助け船でも出すつもりでそこにいたが、うまくまとまったのを聞き届けて去ったのか。
――――小さく手を出しておいて、本気で奪い返そうとはしない。リヴァイが本気で奪い返したいと思ったら、造作もないはずだ。
それほどまでにナナはリヴァイに惚れているし、心も揺らぎやすい。
彼女にとって絶対的な存在だ。
それでも俺に預けているのは、ナナの意志を尊重していることもあるが、少なからず信頼されているのだと思う。――――もしくは、身体は俺に預けても心を繋ぎ止めているのは自分だという余裕でもあるからなのか。
俺はナナの心をも完全に奪うことも諦めない。
リヴァイが持つ、俺に無い物を妬んだところでどうしようもないから―――――俺は俺のやり方で少しずつ、ナナの心を手に入れてやろう。
父親に望む愛情を求められているのは惚れている身からすれば若干複雑な心境ではあれど、今日現れたあの少女のナナの心を満たせるのは、リヴァイではなく俺だ。
父が亡くなって―――――今最もその愛情を欲して不安定になっているに違いない。
ちょうどナナが戻る1年半は、ナナとリヴァイは会うこともなく―――――俺は王都招集の時に逢瀬を重ねられる。少しずつ、俺の色を濃く宿す彼女に染め替えていく。
ザマアミロ、今に見てろ、と心の中でリヴァイに向かって呟いた。