第77章 己己
「――――左手、うまく動かねぇんだろうが。貸せ。」
「――――……。」
言葉を続けられない私の横に腰を下ろして、リヴァイさんは私の腿の包帯をするすると解いていく。
本当にモラルもデリカシーもないただのエロじじぃだったら良かったのに。
全力で拒否できるのに。
……なんで気付いてるの。
その手で包帯が解かれ、当て布をゆっくりとはがされる。凝固した血が貼りつき、一瞬の痛みに小さく息を漏らしてしまった。
「――――っ………。」
貼りついた布を剥がしたことにより瘡蓋がとれたのか、少しだけ鮮血が滲みだし、リヴァイさんの熱い手が傷口の側に寄せられた。
傷口を初めてその目で見たのだろう、その顔は苦しそうに歪められて、悔しそうで自責するような表情だった。
私はこれ以上その顔をさせたくなくて、新しい布で傷口を庇った。
「包帯巻くのは正直大変で……手伝ってもらえますか?」
「――――ああ。」
リヴァイさんは私の腿にゆっくりと丁寧に包帯を巻いてから、左手を優しく握った。
「こっちもだろ。」
「はい………。」
包帯を解いて、当て布を取る。
掌側の傷口を見たあと、私の手を返して甲まで貫通したその傷口を見て、私よりも遥かに、辛そうな顔をする。
「――――すまない………。」
彼は縋るように私の掌を自分の顔に寄せて、苦しそうに一言呟いた。
「謝らないでください。リヴァイ兵士長が言ったんですよ?『てめぇの身はてめぇで守れ』って。それをできなかった、これは私の落ち度です。」
「――――それでも、お前を守るのは俺でありたかった。」
「―――――………。」
その言葉は、激しく私を揺さぶる。
この人の力は私一人なんかを守るために注がれてはいけない……調査兵団、さらには人類までも救う可能性を秘めている人だ。それを彼も了承してここまでお互いにやってきたのに―――――、彼のこの私を守ることへの執着は、愛なのか……もはや義務に成り代わりつつあるのか。
そんなことを考えても、答えは彼にしかわからないけれど。