第77章 己己
翌朝。兵団に帰る日。
荷物をまとめていると、どうやってもリヴァイさんから贈られた大量のお菓子がバッグに入らなくて困りつつも、おかしくて笑ってしまう。そんな中、扉が鳴った。
「はい?」
「――――姉さん、僕。」
「ロイ?どうぞ。」
そういえばロイは昔から、何か用があるとノックもせずに扉を跳ね除けて入ってきていたのに――――、ノックをして伺いを立てて入室する、大人になったんだなぁと小さなことにしみじみする。
私の微笑ましい心の内とは裏腹に、入ってきたロイはすごく不機嫌そうだ。
「どうしたの。怖い顔。」
「――――エルヴィンさんがいるのに、なんであいつとあんなにいちゃいちゃしてるの?」
「いちゃいちゃ………。」
まぁ、そう見えるよね。過保護なリヴァイさんとの触れ合いを、あの距離を、私だって嬉しいと歓迎してしまっていたのは事実だ。
ロイはエルヴィンを慕ってる。
それに――――女性の不貞行為にとても敏感に嫌悪を抱く。それを知っていたはずなのに、とても酷なことをしたんだと、また罪悪感が積もる。
「――――そう、だね……私が……もっとちゃんと、拒否しないといけなかった………。」
「………あいつは、姉さんを守る約束を破っただけでなく、姉さんとエルヴィンさんの仲まで引き裂くの?」
「――――……それは違う。そもそも自分の身を自分で守れなかった私が悪いし――――、ちゃんとリヴァイさんは助けてくれた。それに、エルヴィンとの間を引き裂こうとなんてしてない……!私が――――――。」
「……姉さんが、なに。」
「初恋のあの人を、あの日々を、忘れられないだけなの――――――。私が振り回して、乱してるの。私を嫌っても、蔑んでもいいから……リヴァイさんを責めないで……。」