第76章 束間
「――――確かにな、悪くねぇ。」
「――――っ……は、ぁ……、なに……して、るんですか………!」
「お前が食えと言うから食った。」
「おかしいです、食べ方が……!」
「――――とっくに俺はおかしい。自覚してる。」
「心拍数が上がると……っ………痛むんです……、やめて、ください……!」
「――――そうか、悪かった。だが―――俺の与える痛みなら、お前は喜んで受け入れるだろう?」
全然悪いと思ってない顔だった。私に覆いかぶさったまま、意地悪な目で私の頬に触れる。
「――――それは昔の話です。今は……痛いことは嫌だって、ちゃんと言います。」
「――――お前は……変わったのか。」
そう言って、まるで今の私を探ろうとするように、自分のものだった頃の私を探しているかのように、目の奧を覗き込む。それは切なく苦しいはずなのに、リヴァイさんの表情はどこか柔らかい。
「――――どこか、楽しそうですね。」
「ああ、楽しい。お前にこうして触れて――――お前の目に俺が映るのが。お前の色んな顔を、見られるのが。」
「明日には戻りますよ、兵団に。」
「そうだな。それも理解している。」
「――――エルヴィン団長に、とても言えません。私はどういう顔をして会えばいいんでしょうね。」
「――――会わなきゃいいんじゃねぇか。」
「――――そんな無茶な……。」
「今夜も、お前が眠るまで側にいる。」
「……はい。ありがとうございます。」
核心に触れない、まるでどこからが罪になるのかと探り合うような会話が続いて―――――、最後にリヴァイさんは脱力したように私の身体に体重を乗せて、私の首筋に顔を埋めて切なく息を吐いた。
その彼のサラリとした黒髪を左手で撫でてみるけど、やっぱりその指は満足に動かせなかった。
色んなことが、小さな不安として積もっていく。