第74章 心憂
兵団への帰路に発つ朝、自分の部屋の窓を開けて冷たい風を導き入れた。その冷たさに一瞬身体が震える。
約一年半前か―――――あの時も、強い風が吹き込んで来た先に、あの人の姿を目ざとく見つけた。
そう思い返しながら門の方に目をやると、見覚えのある人の姿が飛び込んで来た。わざわざ迎えに、来てくれたんだ。
「―――――ミケさん!!!」
私が大きな声で呼ぶと、門のほうからミケさんが片手を上げた。
家のことは母とロイとおおかたの方向性は決めたけれど、まだまだやらなくちゃいけないことが山積みだ。兵団へ戻るのは一時的で、またしばらく王都での生活をすることになるだろう。それを、戻ったらすぐにエルヴィン団長にかけあわなくてはならない。
お母様やロイ、ハルに一時の別れを告げて、急いで荷物を持って門前まで駆けた。
「わざわざ分隊長のお手間をとらせて、申し訳ないです。でも、嬉しいです。ありがとうございます。」
「いいんだ、エルヴィンが帰路につくときは、嫌な視線を感じなかったと言っていた。そして今も――――良くない感じがする。嫌な視線は間違いなくナナに向いている。」
「そう、ですか……。」
「俺から離れるなよ。」
「はい!」
私が元気よく返事をすると、ミケさんは少しだけ笑って私の頭を撫でた。
「すぐに帰路についていいのか?」
「あの……実はリヴァイ兵士長からお使いを頼まれていて……紅茶だけ買いに行ってから戻っても良いですか?」
「ああ、構わない。」
この日までにお使いを済ませておこうと思っていたのだけれど、父の急逝でそれどころではなかった。
ミケさんを買い物に付き合わせるなんて恐れ多いなと思いつつ言い出してみると、快く応じてくれた。