第73章 夜這 ※
ナナが無事家族間のしがらみを解消することができて良かった。また、そこに立ち会えたことも貴重だった。
明日、俺は朝には発って兵団に戻る。
ロイ君との話を終えて風呂を借り、母と嬉しそうに積もる話をしているナナにおやすみを告げて部屋に戻り、明日に備えてベッドに入った。
持参した本を小一時間ほど読んでから灯りを消す。
目を閉じながら眠りに落ちるまでの間、ナナが兵団に戻って来たら、どう甘やかしてやろうかと考える。
せっかくの王都に来たんだから、帰りに何か買って帰るのもいいな。ナナが目を輝かしていた菓子でもいいし、俺の部屋でだけ着せるための――――彼女を女神さながらに飾り立てられるようなネグリジェも捨てがたい。
そんな事を考えていると、思わず顔がにやける。
その楽しい思考を遮るように、頭の片隅から年が明けたらしなくてはならない執務の数々が思い出される。まだナナは戻らないから、一つ一つの仕事が少しずつ手間取るだろう。いつの間にか彼女が誰よりも優秀な俺の右腕になっていると気付く。
その時、微かに扉の開く音がした。
キィ、と小さく鳴ったその音に気付かないふりをして、相手の出方を伺う。
なんだ?あの嫌な視線の主が仕掛けてきたのか。
いや、まさか。こんな大きな屋敷に簡単に侵入できるはずがない。
絹の擦れる音。
―――――ああ、なるほど。
その人物が、そっと俺の顔を覗き込んでいる気配がする。俺が寝ているのだと確認して、扉のほうに戻ろうと背を向けたのか、また絹の擦れる音がする。
その腕を引き、ベッドに引きずり込んで肩をシーツに押し付けて覆いかぶさり、身動きを封じた。
「―――――!!」
「――――何をしている?」