第72章 再生
「ただ――――リカルドは次の愛を見つけられずに、ずっと私に囚われて苦しんだのだとしたら―――――その胸の内を想うと、苦しい……。とっくに私のことなんて、忘れただろうって……思っていたから……。」
母は小さくその想いを吐露した。
私も、リヴァイさんを捕らえたまま――――苦しめているのだろうか。リヴァイさんから嫌われて――――顔も見たくない、誰のものにでもなってしまえと思われた方が、まだリヴァイさんは、苦しまずに済むのだろうか。
そんな事が、頭の中をぐるぐると循環する。
「――――私はリヴァイさんのものにはならないくせに、リヴァイさんに嫌われたくない。ずっと私だけを想ってくれていたらいいのにって思う私は―――――お母様より随分ずるくて、嫌な人間だね。」
「―――――それほどの、存在なんでしょう?」
「――――………。」
「リヴァイさんが私をあなたの母だと気付いた時に、彼が言ったの。『あんたには大きな恩がある』って。あれは――――あなたを、ナナをこの世に生んでくれたことという意味だった。」
「―――――!!」
まさかリヴァイさんがそんなことを………。でもそれは、私が別れを告げる前の話だ。だから、今はそんな熱量じゃないかもしれない。
なのに、なぜ―――――こんなに私は嬉しいの。
ダメだ、今日は涙腺が壊れちゃったみたいだ。
ぽろぽろと涙がこぼれて、温かいお湯に交じっていく。そんな私を見て、母は涙を拭いながら言った。
「――――悩んで、考えて、苦しんで、向き合って決めればいい。」
「……うん……。」
母は私の頭を抱き寄せた。
「彼らに感謝しなくちゃ。こんなにも私の娘に、たくさんの形の愛を教えてくれたこと。自分の信じた道を進みなさい。それをきっと、彼らも望んでるから。後悔しない生き方を。」
後悔しない選択を、その時はまだ見出だせずにいた。これから探していくんだ。
似た境遇の母の言葉は、ずいぶんと私の中にすんなり染み込んで――――少しだけ私は自分を赦すことができた気がした。