第71章 帰郷
はぁはぁと乱れた呼吸をようやく少し整えてから、ほんの少しだけ、本音を吐いた。
「――――本当は明日が、少し……怖い。」
「………そうか。怖いのに、頑張ろうとしているんだな。」
エルヴィンは途端に理性的に、包み込むように、私の本音を受け止めて頭を優しく撫でてくれた。
「エルヴィンがいてくれるから、大丈夫だと思える。」
「君が望むままに側にいるよ。」
私は小さく身体を丸めて、エルヴィンの胸にすり寄った。
「――――狡い私でごめんね。こうして眠っても……いい?」
「ああ、もちろんだ。布団に入ろう。おいで、ナナ。」
エルヴィンの言う『おいで』が好きだ。
絶対的な安心がそこにあるから。
私は迷わず飛び込んで行ける。
明日、命の灯が消えかかっているお父様に対面することが、怖い。
お母様とお父様が相対することが、怖い。
そして何よりロイのお母様への誤解が解けるかどうか、それがとても怖い。
エルヴィンが一緒に行くと言ってくれた時、私がどれほど嬉しかったか――――、心強かったか、あなたはきっと知らない。
何度も救われているこの心を、私はどうやったら返せるだろう。
そんなことを考えながらお風呂上りのエルヴィンの胸に顔を埋めると、そこに彼のいつもの香水の香りはしなかった。ただ温かで、雄々しく優しい本来の匂いに包まれて、驚くほど素直に、甘い眠りに落ちた。
「――――1人で頑張らなくていい、俺がいるから―――――おやすみ、ナナ。」
微睡みの中で、大きな温かい手が私の髪を撫でたのを感じた。