第68章 商会
訓練場を解放して市民との交流を計るその企画は、有志の人たちと相談のうえ、“翼の日”と称することになった。
翼の日に向けて、着々と準備を進めている。
風が吹けば、乾いて今にも散りゆきそうな葉がカサカサとなる、もう秋が深まっていた。
「エルヴィン団長……あの、以前報告するように言われたものが……本当にあって……。」
「ん?」
私宛に頂いたファンレターや会食への誘いの手紙を一通ずつ目を通していくと、その中にまさにエルヴィン団長が報告しなさいと言った内容に合致するようなものが、含まれていた。
『可愛い 愛してる 会いたい 好き 可愛い 会いたい 早く会いたい 愛してる 渡さない誰にも ずっと愛してあげる 邪魔はさせない』
見るからに不安定な情緒で書きなぐられたその文字を初めて見た瞬間に恐怖すら覚えた。
「―――――なかなか精神的異常を認める恋文だな。」
「はい………。」
エルヴィン団長はまじまじとその文章を観察した。
「――――嫌な感じだ。変質者を装って何かをまた中央が企んでるのかとも思ったが―――――、正常な精神の人間が書いたものとは思えない筆跡だ。――――おそらく本物の、君への異常な執着を見せている人間が書いたものだろう。」
「――――………。」
エルヴィン団長はその手紙の消印を見て考え込んだ。
「――――幹部の皆とも話したが、まだ君を反乱分子にしようとしている中央憲兵も恐らく完全に諦めてはいない。そしてこの手紙―――――、今この兵団で最も危険が及びそうなのはナナ、君だ。翼の日に向けての準備期間も当日も、絶対に一人になるな。」
「はい。」
「あと気にしているんだが、父上の容体は問題ないのか?」
「はい、ありがとうございます。今はまだ―――――仕事量も随分減らして、ほんの少し弟が手伝いながらなんとか身体も経営も保ってはいるようです。」
「――――そうか。なにかあればすぐに言うんだぞ。」
「はい。」