第66章 垂訓
宿までの道をふらふらと歩く。
あたしは結局、なにも出来なかった――――――むしろ、アーチに良くない決意をさせてしまったのだと思った。
もう、あたしたちのところにアーチは戻って来ない。沸き上がる涙で視界が滲む。あたしの足あとのように小さな滴がぽたぽたと地面に散らされた。
「―――――リンファ……っ……!」
聞き慣れた声に顔を上げると、酒を飲んで眠っていたはずのサッシュが息を切らして正面から駆けて来た。
その表情は、見たことないくらいに不安げで、焦燥している。そのままのスピードであたしにどん、とぶつかったかと思うと、ぎゅうっと締めつけるようにあたしを抱き締めた。
「―――――目が覚めたら……っ……いねぇから……!!こんな時間にこんなところで……っ、何してんだ………っ!!」
選ぶ言葉がアーチと同じだ。いや、アーチが兄に似ているのか。
「―――――サッシュ……アーチ……ごめん…………!」
「――――なんだよ、おい……どうした……。」
あたしがあまりに子供みたいに泣いたからか、サッシュは動揺を隠せないようだった。サッシュに手を引かれ宿に戻ると、時計の針はもう深夜をまわっていた。
「なにがあったんだよ……まさか、アーチに会ったのか……?」
サッシュの部屋の椅子に腰かけ、あたしは小さく頷いた。
「――――何、された?」
「――――なんでもない………。」
「嘘つけよ。じゃあなんでお前はこんな泣いてんだよ。」
サッシュがあたしの頬に手を当てて、涙の痕を親指で拭う。
あたしがサッシュの気持ちを離したくないがために、このことを伏せておくのはあまりに卑怯だと思った。
あんなにアーチのことを苦しめて――――――昔のあの子の優しい笑顔すら失わせてしまっていたなんて。