第65章 脆弱
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「――――なぁ、兄貴とはもうキスした――――?」
ようやく唇を離されたと思うと、睫毛が触れそうな距離でアーチが囁く。その言葉にカッと頬が熱を持った。
「――――セックスもまだ?」
私の反応で察したのか、また意地悪い質問を耳元で囁かれる。まるでアーチが知らない人みたいで、どうしていいかわからなかった。
「やめて、もう……こんなの………アーチじゃ、ない……っ……!」
顔を背けて抵抗を試みても、頬に添えられた手は逃げられないように力強くあたしを捕らえて離さない。
その力に、アーチが男だということを嫌程実感させられた。
「――――俺のためにどうしたらいい?って、聞いたじゃないか。」
「それは…………っ………!」
ビクッとした。
嫌だ。
いくらアーチが望んでも、そんな関係にだけはなりたくない。またあたしは自分を許せなくなる。
絶望に近い感覚を抱いたままアーチの言葉を待った。
すると、眉を下げて、これ以上ないくらいの悲しみと諦めが混じった表情を一瞬見せたかと思うと、あたしの体は強く強く抱きしめられた。
「―――――――兄貴と幸せになって。いつも笑ってて。俺のことは、忘れていい。」
「――――――…………。」
「―――――さよなら、リンファ。大好きだ。」
思いもよらない言葉にただ目を見開く。
なんで、そんな―――――もう、一生会えないみたいなことを言うの?
体が解放された瞬間、体の力が抜けて、あたしはその場にぺたん、と座り込んだ。アーチは何かを吹っ切るように唇を噛みしめて、あたしに背を向けて走り去った。