第65章 脆弱
その日の朝は、サッシュさんとリンファを門まで見送った。
2人とも散々悩んではいるものの、腹を括った様子で朝日の昇る中を駆けて行った。
どうか無事に帰ってきてくれますように。そればかりを祈る。
訓練の後にはナナバさんに対人格闘術の稽古をつけてもらい、へとへとになった身体に鞭を打って団長室に向かう。
執務の時間だ。
「ナイル師団長からお手紙が来ていますよ。」
「ああ。」
手紙を渡すと、その場でエルヴィン団長はそれを開封するためのペーパーナイフを取り出した。その様子を見ながら、小さく御礼を述べる。
「―――――ありがとうございます、エルヴィン団長。」
「ん?何がだ。」
「今朝サッシュさんとリンファが王都へ発ちました。アーチさんのための外出を許可してくださって、ありがとうございます。」
「いや。ナナの助言も助かったよ。――――上手く、説得できるといいな。」
「はい………。」
それからしばらくして休憩のコーヒーを差し出すと、エルヴィン団長は手元に壁外調査での殉職した兵士の名前が羅列されたリストを持っていた。遺族への連絡や処理等を終えて、リストももう片付けようとしているのだろう。
その前に彼らに思いを馳せているのか、しばらくその名前を見つめていた。私は横からそれを覗き込んで、一人ひとり指を指しながら彼らの思い出を小さく話した。
「カルロスさん……3ヶ月前の訓練中に怪我をされて、手当をしました……食堂で働く女の子に、恋をしていました。」
「…………。」
「レーナさん……。新兵で、立体機動が苦手で―――――リンファに教えてもらっていました。笑うと靨が出来る、とても可愛い子……。」
「…………。」
「エイクさん……。新兵で、リヴァイ兵士長に憧れて調査兵団に入団したと言っていました。いつもリヴァイ兵士長を目で追って、誰よりも練習していました。――――あまりに兵士長を追いかけるから……オルオに、睨まれていました。」
「…………。」
「……ごめんなさい、邪魔でしたね。」
私が手を引こうとすると、エルヴィン団長にその指をきゅ、と、握られた。
「――――驚いた。そんなにも皆のことを細かく覚えているなんて。」