第64章 思惑
「――――サネスさん。」
「なんだ?」
「俺が中央憲兵から抜けたいと言ったら―――――抜けられるものですか?」
「――――抜けるのか……?」
サネスさんは大きく目を見開き、俺を凝視した。
心臓を掴まれたような、恐ろしさを感じた。思わず目を逸らして小さく答える。
「……いえ、まだわかりませんが……。」
「―――――歓迎はされないだろうな、中央憲兵がやってきた汚れ仕事を暴露されたら―――――王の信頼の失墜に繋がるからな。」
「そんな……!言いませんよ俺、誰にも――――――!」
「ふ……。」
「サネス、さん……?」
「アーチ………『誰にも言いません』が通用するなら――――――……俺は反乱分子を何十人も殺さなくて済んだはずだよな?」
その感情の無い表情と声色に身の毛がよだつ。
怖い。あのイカれたケニーなんかよりずっと。
俺は初めてこの人の優しい笑みに隠されていた闇を暴いてしまった。
身体が震える。
まさか、な。俺を可愛がって信頼してくれているはずだ。
でも―――――――あの顔は本気だ。
一度足を踏み入れてしまったこの組織から、俺は―――――逃げられないのかも、しれない。