第6章 入団
ナナの入団手続きを済ませ、兵服と部屋の鍵を持ってハンジの研究室に向かう。
扉の前まで来たとき、部屋の中から歌声が聞こえる。
俺は気付かれないようにそっと扉を少しだけ開け、扉の外でその歌声を聴いていた。
俺は歌なんてまともに聞いたこともなかったが、ナナの歌は心地よかった。……そういえば、以前イザベルが歌を歌っていたが……そうか、あいつは歌が下手な部類だったんだな。比べる対象ができて初めて、そう感じた。
そんな事を考える俺に、どこかでイザベルが拗ねているかもしれないと思うと、顔が少し綻んだ。
俺はすでにほんの少し開いた扉をノックし、扉を開けた。ナナはハッとした顔で、こちらを向いて立ち上がった。
「………いい。続けろ。」
「えっ………続けろというのは………?」
「歌だ。」
俺は空いているソファにドカッと腰を下ろして足を組む。ナナは戸惑っていた。
「あの……わざわざ兵士長のお時間を頂いてお聞かせするほどのものでは………。」
エルヴィンの前では何の断りもなく歌い出した奴が、随分謙虚なことだ。俺に聞かせる歌はないというのか?
俺ははぁ、とため息をついてナナを見上げ、言い直す。
「俺が聞きてぇ。お前の歌は心地いい。歌え。」
「へ、兵士長命令ですか?」
「………そうだな。兵士長という肩書の初めての命令だ。歌え。」
「………はい。では、あなたのために、歌います。」
ナナは観念したように、そしてほんの少し嬉しそうにはにかみ、大きく息を吸い込んだ。