第60章 慕情 ※
地下街でのあの日々が詰まった私の宝物が灰になってから半月。
訓練の最中に、リヴァイ兵士長が言っていたマシューさんの動きに目を凝らしてみた。
―――――わざと熟練でないふりをしているのが、言われた上でよくよく観察すればわかった。大雑把で基礎に近い立体機動の割に、身体が全くぶれない。それはその兵服の下に、兵士の中でもトップクラスに鍛えられた身体を持っていることを示している。
大勢の兵士を指揮・指導しながらそこに気付くリヴァイ兵士長の眼もまた、恐ろしい。
そのままマシューさんを目で追っていると、仲間から声をかけられて笑顔で会話をするも、どこか踏み込まずにその場を回避しているように見えた。
―――――密偵だからか。
深く関わる事を避けているみたいだ。
マシューさんがその場を離れた後、彼のいた場所でキラリと光る物を拾った。
「――――――ペンダント………。」
私は慌てて後を追い、マシューさんに声をかけた。
「マシューさん!」
「………あぁあなたは……団長補佐の………。」
「ナナです。ちゃんとお話しするのは初めてですね。」
「―――――そう、ですね。」
私の事を警戒している。それはそうだろう。
あの頭の回転が早いエルヴィン団長の最も側にいる私に、下手なことを知られたくないはずだ。
「―――――これ、落とされましたか?」
私は掌にペンダントを乗せてマシューさんに見せた。
「!!あ、はい!そうです……!ありがとう……っ……!」
目を開いて慌てて、さっきまでそこにしまっていたのであろうポケットを探ってから、私の手からペンダントを受け取った。
今の反応は嘘じゃない。わざと、落としたわけじゃなさそうだ。
マシューさんは少し微笑んで、安堵の色を滲ませた。