第5章 絶望
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ナナが団長室から出て行ってすぐ、俺はエルヴィンに問うた。
「おい、まんまとお前の思惑通りってわけか?」
「………何のことだ?」
「しらばっくれやがって。最初から、ナナを俺につけることが目的だっただろう。俺という駒を、あいつを使って操るつもりか?」
「………お前が望んだことを叶えたつもりだが?」
エルヴィンは飄々とナナの書いた入団届けに目を通す。
「………ナナ・エイル………?彼女は、オーウェンズのはずでは………?」
ナナの書いたサインは、オーウェンズという文字を意志を持って打消し、確かにナナ・エイルと記載されていた。
あいつなりの、けじめに見えた。
「………オーウェンズを出た、と言っていた。家を……自ら捨てたのか。」
「エイルとは何の名だ?」
「……あいつの夢を育てた、じじぃが付けた名だ。」
「エイル……………いいな、彼女にぴったりだ。」
エルヴィンは微笑みながらエイル、の文字をなぞった。
「あ?………意味がある言葉なのか?」
「………昔何かの本で読んだ。エイル………癒しの女神の名前だ。」
エルヴィンの言葉を聞いた時、ナナの笑顔が思い出される。
あの笑顔を、俺は守れるだろうか。
今度こそ、後悔しないために。