第59章 伝播
小さな日記を開いて、ワーナーさんの同志であった人物の話になった。一人はエルヴィン団長のお父様。そしてもう一人の人物について。
「フリゲン・ハーレットについてはずっとなんの進展もなかったが――――――、ナナ、なにかわかったんだろう?」
エルヴィン団長に促され、私はその考えを述べた。
「はい、この……ハーレットですが、アルファベット、という文字で表すとHarlertと書きます。ですがこの――――Hは発音しないことがあったり……また、Rは伸ばす発音になることと、ル、やラ、と発音する場合もあるんです。」
「――――――……。」
「――――――つまり、読み方を変えるとこうなります。」
私は確信をもって、あの聡く希望に満ちた目をするあの子を思い浮かべた。
「――――――“アルレルト“。今104期の訓練兵の中に、アルミン・アルレルトという人物がいるんです。――――――彼は、海や外の世界を信じているようでした。」
「それ……、ほぼ確実じゃないか……!」
ハンジさんの言葉に私は深く頷いた。
「はい。おそらく彼の身内に……、彼にその夢を託したフリゲン・ハーレットがいるはずです。」
その場が静まり返った。
「―――――これで、私の知ることは全てです。」
「ナナ、本当にいいのか?大事な思い出なんだろう?」
エルヴィン団長が私に覚悟を促す。
私は心臓を捧げる敬礼をして、少しだけ強がって笑みを向けた。
「内容は全て頭に、思い出は全てこの胸に刻んでいます。―――――だから、大丈夫です。」
「―――――そうか。」
「ただ―――――、リヴァイ兵士長。」
「なんだ。」
「許して頂けるのなら―――――――私の手で、火を点けたいです………。」
ほんの数か月前にワーナーさんに誓った。
ワーナーさんが大事にしていたこの本たちを持って、ワーナーさんに世界を見せてあげると。
そう簡単じゃない事は分かっていたけれど、こうも早く手放さなくてはならないなんて。胸の奥が掻き毟られるような、虚しさと無力感だ。
「―――――いいだろう。」
「―――――はい。ありがとうございます。」