第59章 伝播
ハンジさんが眼鏡の奥から私を真っすぐに見つめる。私はもう避けられないと悟って、エルヴィン団長に目をやってから、小さく頷いた。
「――――――はい。」
「ナナが海、ってものを知っていたり、壁の外へ希望を持っているのは知ってたけど――――――他に、何を知っているの?私たちに、話してくれる?」
「――――I see―――――――……」
私は息を吸い込み、古の異国の言語で歌った。
ハンジさんとミケさんは、驚愕を貼りつけたといった顔で私を見ていた。
「な……んだ、今の言葉は……ナナ………!」
「―――――この書物の持ち主が私に託した、かつて外の世界で栄華を極めたとされている古の国の、言語です。」
「――――素晴らしいじゃないか……!!」
ハンジさんが希望に満ちた目でわなわなと震えて、私の手を握った。
「それって、今も壁の外に人間がいるってこと……?!そうなの……?!」
「―――――いえ、それは分からないんです。だから私は確かめたい。この目で。―――――調査兵団に入団した理由です。そして―――――その言語のことや、その国がかつて培ってきた文明の一端が、この書物たち………。」
私が想い出の詰まった書物に視線を落とすと、その様子を一瞥してリヴァイ兵士長は続けた。
「―――――本題に戻るが。」
「は、はいっ………。」
「地下街でワーナーが外の世界のことを知っていたところまで、奴ら中央憲兵は辿り着いている。そこから、“王都から降りて来ていた白い髪の少女”まで奴らは握ってる。―――――お前に辿り着くのは、時間の問題だ。」
「―――――――!!」