第15章 うちはの里を作っちゃおう 1
「今日は随分にこやかですね、先輩。」
「そう見える?」
「はい、何だったら嬉しそうにも見えますけど。」
テンゾウに指摘されたカカシは、人差し指で頬を掻きながら困ったように笑う。
「…ま、そうだな。」
その声音には戸惑いも含まれていた。
いつも通りであるならば、影分身を追ってこの部屋に侵入してきた女を、カカシが取り押さえて独房に収監するなり処罰する。
その時の暗澹たる思いは、筆舌に尽くし難い。
己の欲望の為には他者を顧みない、その姿勢は理解し難い上、これが里で同じく忍をしている仲間なのかという失望もあった。
そんな思いを今日も抱えるのか、と思っていた時、少し早いタイミングでエニシが入ってきてしまった。
かなり気まずい思いがあったが、彼女ならどう出るのかという好奇心もあった。
―軽蔑か、憤怒か…。
或いは見て見ぬふり、という可能性も過ったが、結果は正反対だった。
対応自体は淡々と暗部らしい優秀さだったが、その後に怒った理由が只々愉快だった。
自身に暴言を吐かれたにも関わらず、それらは歯牙にも掛けず、カカシへの侮辱に憤っていたからだ。
それも女同士のおどろおどろしい感情からではなく、純粋にカカシへの気遣いによるもの。
これほどまでに真っ直ぐな気持ちをぶつけられたのは久々だった。
単純に暖かな日差しを浴びたような心地よさがあった。だが、自分がその安らぎに満たされていいのかという後ろめたさもある。
「…偶には、素直になったらいいじゃないですか?」
俄かに騒がしくなった別部屋の隅に、カカシはテンゾウと並んで壁に寄りかかった。
二人の視線の先には、嬉々として女の身ぐるみを剥いでいるエニシがいる。
カカシは色々な意味で苦笑した。
「俺も色々あってな…。中々真っ直ぐには受け入れられないのさ。あいつと違ってな。」
「随分と意地っ張りだったんですね、先輩って。」
二人はエニシを見守りながら小さく笑った。