第4章 東京卍リベンジャーズ・羽宮一虎
ここへ来たのは中1の夏
東卍を結成したばかりの一虎達は
海水浴がてら湘南へツーリングに来た
(…地元の族が絡んで来たの…この辺だっけ?……マイキーの"ホーク丸"がガス欠になったのはもう少し先だったな…)
その先に待ち受ける運命など
まだ何も知らなかったあの頃
みんなの無邪気な笑顔を思い出し
悲しく微笑んだ一虎の後ろから
誰かの声がした
『…今日はダンパー気味だけどそこそこ楽しめたよ〜』
振り返ると
堤防の下にサーフボードを抱えた女の子が立っていた
日に焼けた肌
束ねた栗色の髪の先からポタポタと水滴を滴らせている
「…?…」
言葉の意味が分からず黙っている一虎に
彼女はなおも話しかけてくる
『……オニーサン……ロング?…ショート?』
「……へ?」
『……?…ボード。……あれ?サーフィンやってるんじゃないの?』
やっと話が掴めてきた一虎は
苦笑いをして言った
「…あー……サーフィンは一度もやったことないや…」
『…そっか。……ごめんね…真剣な顔して沖の方見てたから勘違いしちゃった…』
彼女は足首に巻いたバンドのようなものをベリベリと外しながら
『かっこいいタトゥーだね』と笑う
人懐こい笑顔が
一虎の心をほぐした
「…楽しいの?サーフィンて」
『ウン。メチャクチャ楽しいよ』
「ふぅん」
『…オニーサン…この辺の人?』
「ううん。東京から電車で来た」
『…そうなんだ……私もコッチに引っ越して来る前は東京に住んでたよ。……そっかぁ…もし家が近かったら、私が波乗りの楽しさ教えてあげたのに…』
「…あぁー…それは残念だなぁ〜…」
一虎がわざとらしく悔しがってみせると
彼女は『…オニーサン…心無ぁ…』と言って苦笑した
彼女は堤防に寄りかからせるように停めてあった自転車に
サーフボードを脇に抱えたまま跨ると
ペダルに砂の付いた素足を乗せた
『……んじゃね、オニーサン♪…私…大抵この辺で入ってるから。…また会ったらよろしくね』
「…ぁ……ウン」
片手で器用にハンドルを操りながら
駐車場を出て行く彼女の後ろ姿を
一虎は微笑んで見送った