第3章 東京卍リベンジャーズ・半間修二
この街の人々は
夕方前から少しずつ動き出す
花屋やクリーニング屋の配達車の横を
酒屋の台車が空き瓶をガチャガチャと鳴らしながら通り過ぎ
髭剃り前の見習いホストが
よれたスーツ姿で入り口のマットに掃除機をかけ始める
すっぴんの嬢は気だるそうな表情を浮かべ
同伴相手にメールを返しながら美容室の階段をヒールの靴音高く上っていく
新宿・歌舞伎町───
日も暮れかけて
ネオンが灯りだす頃には
街全体に魔法がかけられたみたいに
全てが煌びやかに輝き出し
光の中を泳ぐように
既にどこかで一杯引っ掛けてきた客が
2軒目を探してウロつき始める
ベニヤで出来た看板を手にした呼び込み達が
手当たり次第に声を掛ける横で
メイドカフェの店員・織月 レイナは
チラシを配っていた
『バレンタインイベント開催中でーす♪よろしくお願いしまーす♡』
笑顔を振りまくレイナに
2人組の男が話しかける
「ねーねーメイドちゃーん。君すっごいかわいーね」
「俺らと遊び行かない?」
こんな風に声を掛けられる事など日常茶飯事なレイナは
男達を笑顔でいなす
『ごめんなさーい…いまお仕事中なんですぅ』
けれど
今日の男達は少ししつこかった
「大丈夫大丈夫」
「ちょっとホテル付き合ってくれればいーんだ♪バイト代弾むよ?」
『そういうのは…困りますぅ』
「冷たい事言わないでさ…行こ行こ!」
男達は両脇からレイナと腕を組むようにして
ホテル街の方へ歩き出した
『…っ……あの……ホントに困ります……離してください』
「いーからいーから♪」
その時
前から背の高い痩せた男が歩いて来た
その男は
甲に"罰"と刺青を入れた手で右目を隠すと
嬉しそうに笑った
「あは♡おもちゃ見〜っけ」
レイナと腕を組んでいた男達が
「ヒッ」と声を上げて足を止める
「…で、出た」
「歌舞伎町の死神‼︎」
男達はレイナから手を離すと
ヘナヘナと腰を抜かしてしまった
咄嗟のことに頭が追いつかないレイナは
小さく首を傾げる
『……死神…?』
"死神"と呼ばれたその背の高い男は
地べたに座り込んでいる2人組のえり首を掴んで立ち上がらせると
そのまま路地へと入って行った