第9章 東京卍リベンジャーズ・灰谷兄弟
『…アナタがどれだけ私を大切にしてくれてたか……優しく抱いてくれたことも…身体が覚えてる………なのに…ちゃんと思い出そうとすると白い靄の中に霞んで見えなくなってしまうの…』
レイナの指先が
縋るように背中に回されていく
『……もう……付き合ってた頃に戻れないのは…よく分かってるよ………別れ話を切り出したのは私なんだから……きっと…アナタを傷付けちゃったんだよね…………本当にごめんなさい…』
「……」
『…私がこんな事言うのは図々しいと思うけど……ちゃんとやり直すのは…どうしてもダメかな?……まだ私のこと許せない?……………アナタのことが大好きなのに……こんな関係は…苦しすぎるよ…』
「……っ…」
『……やり直すのが無理なら…もう一度だけ昔みたいに抱いて欲しい……私を愛して欲しいの……………そうしたら…後はもうアナタの好きにしていいから…』
「……………レイナ…」
名前を呼ぶと
腕の中で彼女が顔を上げた
大きな瞳から
涙の粒がポロポロとこぼれ落ちていく
自分の行為がこんなにも彼女を傷付けてしまっていたことに
蘭は始めて気が付いた
「……」
小さくため息をついて
泣き崩れそうな身体を包むように抱きしめる
「……オマエ……そんなにオレに愛されたかったのかよ…」
宥めるようにポンポンと頭を撫でた
「……でも…悪い……オレには無理なんだ…」
『……』
「……オレ……誰かをちゃんと愛してやったことなんかねぇんだよ…」
不甲斐ない自分に
苦笑いが込み上げた
「……ゴメンな…」
蘭は
素直な気持ちで謝った
けれど
レイナは大きく首を横に振った
『……そんなこと…ない………さっきのキス……すごく…嬉しかったよ…』
「……っ…」
『……私の気持ちに…答えてくれたんじゃないの?……これも…私の勘違い?』
レイナは両手で蘭の頬を包んで
ゆっくりと唇を近付けていく
涙に濡れた黒い瞳が祈るように閉じられた
『…ねぇ……キス…して?………お…願…』
言い終わる前に
蘭はそっと唇を塞いだ
微かな水音を聞きながら
角度を変えて優しく啄む
首を絞められているわけでもないのに
喉の奥が詰まったように苦しかった