第2章 初めまして
少女が今まで、どんな気持ちで生きてきたか分からない。
当たり前だ。
自分にしか、そんなことは分からないのだから。
それでも、安室は少女の気持ちが少しわかったような気がして
更に胸を締め付けられていた。
沢山名前がある。
少女の言葉に、安室は自分の影を無意識に少女に重ねてしまっていた。
自分にも、複数の名前がある。
たまに、本当の自分はどの名前なんだろうと不安になる事もある。
それでも、自分というものを保てたのは
親がくれた名前という柱が、真っすぐに心にあるからだ。
自分はちゃんと、ここにあると。
そう胸の中で確認出来ることは、本当に幸せなことだ。
だが、目の前の綺麗な顔でほほ笑む少女にそれはない。
そこまで深く、少女は考えてないかもしれないが
安室には自分に固定の名前が無いと話す少女が
とても儚く、いつでも消えてしまいそうな存在に見えてしまった。
「……名前っていうのは、大事ですよね。」
「え?」
徐に椅子から腰をあげ、ベッドに座る少女に近づいた。
床に膝をつき、か細く白い肌をした少女の手を取り、言葉を紡ぐ。
「僕も、沢山名前あるんですよ。でも、自分だけの名前があると、嬉しいですよね」
「……そう、なのかな」
少女はじっと安室を見つめる。
その瞳は、少しだけ揺れているように見えた。
「自分だけの名前って、どうやって付けるの?」
そう問われて、安室は答えに詰まった。
両親からの、最初の贈り物だよ。
等と綺麗に伝えられるのがベストなのはわかっていた。
だが、今それを言うのは酷過ぎるのも、わかっていた。